アート型ビジネスとは?

アート型ビジネス~「みんなと同じ」がつまらないあなたに提案する、新しいビジネスのあり方~

取材・文・編集:ゆりにこ

この記事は、山田研太氏が提唱する“アート型ビジネス”について、対話形式にまとめたものです。

「稼ぐよりも自分の気持ちを大切にする」「売れるものではなく自分が作りたいものを作る」「効率よりも無駄を大切にする」・・・。

これまで“マーケティング”の世界で当たり前だとされてきた価値観の全てがひっくり返る新しいビジネスのあり方に、戸惑いや抵抗をもたれるかもしれません。そのひとつひとつの気持ちに丁寧に応えるつもりでこの記事を執筆しました。

“アート型ビジネス”の考え方には、ビジネスに限らず、人生を豊かに生きるためのヒントがたくさんつまっています。一緒に“アート型ビジネス”の旅に出かけましょう。

0章

とある離島の小高い丘の上。海がのぞける見晴らしの良いその場所に、研究者だというひとりの男がいた。青空の下、ポツンと置かれたベンチに腰掛け、海を眺める男。

男の元にはあらゆる悩みを抱えた人々が、わらにもすがる思いでどこからともなくやってくるという。今日もまたひとりの若者が、一歩、また一歩と、地面の感触を確かめるように丘をのぼってきた。

若者

あの・・・。

研究者

はい。

若者

友人からあなたのことを聞いてやってきました。

あなたに相談すれば、どんな悩みも解決してもらえると・・・。

研究者

それは少し大げさですね。

若者

・・・。

研究者

いいですよ、聞くことはできますから。

若者は、男の隣に腰掛けると、ぽつりぽつりと話を続けた。

若者

あの、私は、自分にしかできないことを仕事にしたいと思っています。

人と同じことがとにかく嫌で嫌で仕方がなくて、仕事も生き方も個性的でありたいんです。

だから、小さくからでも起業をして個人で仕事をしていこうと思ったんですが、全くダメで

研究者

そうですか。
どんなことをしてきたんですか?

若者

本を読んだり、起業塾に行ったりしました。私にできる努力は精一杯したつもりです。

でも、「その通りにやればうまくいく」と頭で分かっていても、他に同じことをしている人がいると分かった途端に、身体が動かなくなってしまうんです。

研究者

ははは。

若者

笑わないでくださいよ。

起業塾の先生にも「教えてもらったとおりにできないんだから成果がでなくて当然だ」って散々怒られたんですから。自分でもワガママなことくらい分かっています。

研究者

ワガママだなんて思っていませんよ。

あなたが悩むのも仕方がないなあと。

若者

どういうことですか?

研究者

いやいや。そうだ、もしよかったらこれを読んでみてください。

前に、あなたと同じような方に読んでもらったら、とても感動されていました。何かあなたにとってのヒントがあるかもしれません。

そういうと、男は大きなカバンから一冊の本を取り出し、若者に手渡した。

若者が宿に戻り、テーブルランプに明かりを灯すと、男から借りた本がオレンジ色の温かい光に照らされる。その本には「移住」という名前がつけられていた。

あの男が書いたものだった。

「移住・・・」

そっと表紙をめくる。

この本には、多少なりともビジネスについて学んだことがある人が、恐らくほとんど聞いたことがないであろう「全く新しいビジネスのあり方」の可能性について提案することを目的に書きました。

そして、こう続く。

“この本で語る新しいビジネス理論は、画家・ミュージシャン・芸人のような、”クリエイティブで個性主義的な職業の人たち”の世界における「独自のスタイルを確立して売れる」までの共通点をまとめ、その方法を体系化したものです。

その方法は、個人事業主を含む起業家や経営者が”同業との差”をできる限り大きく開けて「強い個性」を作り、「唯一無二のポジション」を手に入れて競争から抜け出すために応用することができます。

僕は、その方法に「アート型ビジネス」と名前を付けました。・・・”

「唯一無二・・・?アート型ビジネス・・・?」。

ページをめくる手がどんどん早くなる。気がつくと、外はすっかり明るくなっていた。

若者は、本を小脇に抱えると、急いで宿を飛び出した。

1章

若者が息を切らしながら丘をのぼると、昨日と同じように男がベンチに腰掛けているのが見えた。

若者

あの・・・。

研究者

あれ、早いですね。
その顔は寝不足ですか?

若者

失礼です。

研究者

まあまあ、どうぞ。
少し休みましょう。

沈黙に流れる風の音。

穏やかな波の動きに合わせ、荒れた呼吸が少しずつ穏やかになっていく。

若者

本、ありがとうございました。

研究者

いえ。

若者

・・・何も聞かないんですか?
その、感想とか。

研究者

感想が聞きたくて貸したわけではありませんから。

若者

・・・。

あの「アート型ビジネス」について、もう少し教えてもらえませんか?

なんだか、今の私にすごく必要な気がしています。

研究者

そうでしたか。

いいですよ。移動して話しましょう。

男は立ち上がり、若者を小川のほとりに連れて行った。

地べたに腰かけると、ひんやりと地面の冷たさが伝わってくる。

研究者

僕、昔から水の音が好きなんですよね。

ほら、なんとなく気持ちが軽くなった気になりませんか。時々、無性に水の音が聞きたくなるときがあるんですよ。

わかります?

若者

は、はあ・・・。

あの、今日は、“アート型ビジネス”について教えてもらいに・・・

研究者

まあ、ゆっくり話しましょう。

時間はどれだけかけたっていいんですから。

男は草履を脱ぎ、足を草の上に投げ出した。

研究者

こうすると気持ちいいんですよ。

若者

はあ・・・。

あきれ顔の若者を横目にちらりと見て、男は話し始めた。

研究者

”アート型ビジネス”というのは、自分の「これをやりたい!」という気持ちを他の何よりも優先するビジネスのあり方のことなんです。

若者

「これをやりたい!」の気持ちを優先?

研究者

そうです。

若者

何よりも?

研究者

ええ。

若者

あの、ちょっといいですか?

研究者

なんでしょう。

若者

私が通っていた起業塾では、

「お客さんのニーズにあわせて商品をつくりましょう」「自分が言いたいことではなくて、お客さんが求めていることをブログに書きましょう」と散々教わりましたよ。

なのに「これをやりたい」を優先しなさいなんて、いい加減なこと言わないでくださいよ。

研究者

ははは。

それじゃあ、その塾の全員が、思い描いていたとおりの結果を出せていましたか?

若者

そう言われると・・・。

成果を出していたのは3割くらいだったと思います。

研究者

では、なぜ、残りの7割もの人が「売れない」のだと思いますか?

若者

うーん。

ニーズをつかめていないとか、行動量が足りないとか、文章が下手だとか?

研究者

昨日渡した本、本当に読んだのかってくらい分かってないですね。

若者

そんな言い方しなくてもいいじゃないですか。

研究者

まあまあ、落ち着いて。

売れない理由は2つあります。

ひとつは、「そもそもの商品・サービスがおもしろくないから」。僕のいう「おもしろくない」というのは、どの商品も似たり寄ったりで、個性がないことですね。

若者

そんなはっきり言わなくてもいいじゃないですか。

でも、私も、“みんなと同じ”がつまらなくて動けなかった側の人なので何も言えないのですが。

研究者

まあ、個性のない商品になってしまうのも、仕方がないんですよね。

「ニーズを汲む」というのは「個性を手放す」のと同じですので。

若者

そうなんですか?

研究者

ええ。

たとえ、100人の起業家がいたって、その全員が、「ニーズ」つまり「お客さんが求めているもの」に合わせて商品をつくったところで、100個の同じような商品が生まれるだけですから。

すると、どうなると思いますか?

若者

う~ん。

同じ商品ばかりになると、競争も激しくなりますし、なんだか疲れちゃって、続けられないと思います。

研究者

そう、売れない理由のふたつめは「続かないから」です。あなたが言うように、競争の波にもまれて消耗し、続けられなくなることもあります。

ですが、それ以前に、ニーズに合わせるために「これをやりたい」という気持ちを押さえ込むので、やっていて「楽しくない」んですよ。楽しくないから続けられないんです。

逆に、楽しくて楽しくて仕方が無いことが仕事になったら、いつまでも続けられると思いませんか?

若者

それはそうですけど。
ちょっと整理してもいいですか?

あなたの話をきいていると、“アート型ビジネス”とは“ニーズを汲まないビジネス”だと言っているように聞こえるんです。

研究者

そうですよ。

“アート型ビジネス”では、何よりも「これがやりたい!」を優先しますから。

若者

じゃあ、「稼ぐ」よりも?

研究者

そうです。
「稼ぐ」よりも「これがやりたい!」を優先します

若者

ちょっと頭が混乱してきました。

研究者

ははは。

2章

若者

お客さんのニーズも汲まない上に、稼ぐことよりもやりたいことを優先するなんて、そんなことがビジネスになるんですか?

ニーズがないものが売れるなんて考えられません!なんでも売れるってことですか?

研究者

そんな感情的にならずに。

若者

すみません。

研究者

まず、ビジネスの世界で言う「ニーズ」とは、お客さんのお悩みや願望のことをいいますね。「痩せたい」とか「モテたい」とか「収入をあげたい」とか。

そこまではいいですか?

若者

はい、起業塾で100回以上は叩き込まれました。

研究者

そのようなお悩み解決以外で、お客さんがお金を払う動機になるものがあるのですが、なんだと思いますか?

若者

う~ん・・・、
なんでしょう。

研究者

「好き」の気持ちです。

若者

ちょっと恥ずかしくなってきました。

研究者

いやいや、そういうんじゃないですよ。

たとえば、好きな音楽アーティストのライブに行ったときに、限定グッズや、普段使いはできなさそうなTシャツをつい買ってしまった経験はありませんか?

若者

あります、あります!

1枚5000円もするTシャツをつい買ってしまいました。Tシャツなんて1000円あればコンビニでも買えるのに。

研究者

まさにそれが”アート型ビジネス”の代表例です。

その「好き」という気持ちは、おそらく、あなたにとって、他のものでは代わりがきかない「好き」だったのでしょう。

代わりがきかない、つまり、代替不可能な度合いが高ければ高いほど、人は「お金を払いたい」と思うものです。

あなたはそのアーティストが他では替えられないほど「好き」だから、高額なTシャツを買ったわけです。

若者

たしかに。

研究者

芸術の世界で、たった1枚の絵に数億円の値がつくのも、同じ原理ですよ。

若者

言いたいことはよくわかりました。

でも、「好きだから」でお客さんがお金を払うことと、「楽しい」をビジネスにすることは、また別の話のような・・・。

研究者

そうですね。

“アート型ビジネス“は、ただ「楽しい」と思える活動をしながら待っているだけでお金をもらえるほど簡単なものではありません

そうだ、あなたが、その音楽アーティストを好きになったきっかけを教えてください。

若者

えっと、確か、友人から勧められたんだと思います。

正直、勧められるまで、そのアーティストのことも知らなかったですし、なんなら音楽自体にも興味がありませんでした。

でも、友人が「とにかくいいから聴いてみて」ってあまりにしつこく言うので渋々聴いてみたら、すっかりハマってしまったんです。

研究者

まさに “アート型ビジネス”の買われ方を体験されていますね。

一般的なビジネスでは、売り手と買い手が直接つながります。それに対して“アート型ビジネス”では、売り手と買い手の間にファンが挟まれることが多いんですね。

熱狂した一部のファンの口コミによって、じわりじわりと外側に熱が広がることで売れていくのが“アート型ビジネス”の特徴です。

若者

まんまとハマってしまいました。

でも、自分のことを広めてくれる熱いファンと出会うにはどうしたらいいでしょうか?

研究者

とにかくあなたが「これがいい!」「これが楽しい!」と心から思っていることを表現し、口説いて巻き込んでいくしかありませんね。

音楽アーティストが路上ライブを重ねて、チャンスを狙うのと同じようなものですよ。

若者

なんだか途方に暮れそうです。

自分なんかのファンになってくれる人がそんなにいるとも思えないし。

研究者

いやいや、心配ご無用です。

「なにがあってもあなただけのファンでいます」という熱狂的なファンが、ほんの数人さえいれば、“アート型ビジネス”は十分成立しますよ

若者

そうなんですか?それならできる・・・かも。

研究者

“アート型ビジネス”の世界に興味がわいてきたみたいですね。

若者

はい、わくわくしています。

私も「好き」で選ばれる、唯一無二の存在になりたいです!

研究者

それでは、次はこれを読んでみてください。

“アート型ビジネス”の入り口に立つ全ての人に大切にして欲しい心構えを僕がまとめたものです。自分にしかできないことを探求していきたいあなたにはぴったりだと思いますよ。

若者

ありがとうございます。

研究者

天気がいいので、どうぞこのままここで読んでいってください。川のせせらぎを聞きながらの読書は最高ですから。

明日、また同じ時間にここでお会いしましょう。

男は、本を若者に手渡すと、むくりと立ち上がって去って行った。

若者が草の上にごろんと転がってみると、身体中にひんやりと地面の温度が伝わってきた。ここにきて、少々徹夜がこたえたが、男の言うとおり、今日はこのまま本を読んで過ごすことにした。

「表現者シップ」

そう名付けられたその本の表紙を、ゆっくりとめくった。

「はじめに」

この本で伝えるのは「アート型ビジネス」の道を歩き始めることを決めた人が、はじめに「もっとも大事にすべきこと」です。この本が、これから表現活動を始める人にとっての指針や、迷ったときに立ち返る原点、そして、落ちこんだときの心の支えになることを願っています。

・・・

・・・

・・・

どれだけの時間が経っただろう。

本を読み終える頃、あたりはすっかり暗くなっていた。若者は静かに本を閉じる。

「・・・はあ」、大きなため息をひとつついた。

3章

翌朝、男は約束どおり、小川のほとりに寝転び、空を眺めていた。

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。

遠くから、荒い足音が近づき、男の耳元でぴたりと止まる。視線をやると、若者が険しい表情で男を見下ろして言った。

若者

なんなんですか?

研究者

それはこちらのセリフです。
すごい剣幕ですよ?

若者

あなたは結局、私に何を伝えたいんですか?

この本、言われたとおりに読みました。だけど、「とにかく楽しみなさい」とそればかりで、全く理解ができません。

「楽しむことが大事」「楽しめることを見つけましょう」そればっかり!楽しんでいるだけで、唯一無二の存在になれるんだったら誰も苦労しませんよ。

あなたが言っていることは理想論に過ぎません。私が聞きたいのはそんな絵空事ではないんです。誰にもマネできない、唯一無二の存在になる方法を教えてください。

研究者

理想論でも、絵空事でもありませんよ。

まだあなたには早かったのかもしれませんね。

今日は大事な話をしましょう。

若者は促されるように男の隣に座る。

男は、起き上がると、近くに落ちていた木の棒を手に取り、地面に3段のピラミッドを描いた。

研究者

良いですか?
これが“アート型ビジネス”を構成する3つの要素です。

下から順番に、
「楽しむ」
「自己納得感を高める」
「ポジショニングをつくる」
の順です。

若者

「楽しむ」
「自己納得感を高める」
「ポジショニングをつくる」・・・。

研究者

「楽しむ」は、心から楽しいと思えることを見つけて、人からどう思われるかを一切気にせずに、自分のためだけにその活動をやってみる段階です。

ただやっているだけで、心が満たされて、「幸せだなあ」と感じられる状態をつくるということですね。

若者

うーん。
なんだか、難しそうです。

研究者

そう、実はここが1番時間がかかるんですよ

「楽しむ」は木の根っこのようなものです。どれだけ立派な木も、根が深く太く張っていないと、どこかで倒れてしまうように、「楽しむ」土台ができていなければ、未来でどれだけ評価や結果がついてきたところで、続けられませんから。

若者

私のように“人と同じが嫌”という人は、特にそうかもしれませんね。
頭で分かっていても心が動かなくて失敗してきたので。

研究者

その通り。

「楽しむ」の土台ができてから、2段階目の「自己納得感を高める」に入ります。「自己納得感を高める」とは、自分で自分の作品(商品)に「良い」と評価し、愛着が持てる基準を、自分の中につくることです。

「譲れないこだわり」に近いものをイメージしてください。

若者

また難しくなってきました。

「これが自分の作品(商品)だ」と自信をもって言えるところまで質や技術を磨き上げるイメージですか?

研究者

そうですね。

ただ、「楽しむ」が土台にあることが大事ですよ。楽しめている上に、自分なりの「良い」の基準があることで、たとえ、まわりから何を言われても、自分の作品にブレがなくなりますから。

そして最後に、唯一無二の存在になるための「ポジショニングづくり」に入ります。

若者

起業塾でも「ポジショニングが大事」だと習いました。

研究者

なるほど。

「ポジショニングが大事」というのは一般的なビジネスの世界でも言われていることですが、“アート型ビジネス”でいうポジショニングとはまた性質が違うんですね。

若者

・・・というと?

研究者

一般的なマーケティングでは「ポジショニング」がとれるところ、つまり、売れるところを狙って、その範囲の中で、楽しみややりがいを見つけようとします。

一方で“アート型ビジネス”の場合は、「楽しい」の土台が先にあります。その結果、楽しめるところでポジショニングをとることになるんですね。

若者

“売れるところで楽しむの”ではなく、“楽しめるところで売れる”を狙うということ?

研究者

そうです。だから、“アート型ビジネス”では何よりもはじめに「楽しむ」を大事にしています。

人からフィードバックをもらったり、まわりをリサーチしたりするのも、ポジショニングづくりの段階からです。

まずは自分で自分を楽しませられなくてはなりません。

若者

それまでは?

研究者

それまでは一切、客観を入れず、主観だけで自己表現を楽しむのです。

たとえ評価や結果がついてこなかったとしても、ただやっているだけで心が満たされるほど楽しめる「これだ!」というものに出会うところから”アート型ビジネス”ははじまります

それだけでも3年~5年かける価値があると僕は思っていますよ。

若者

さささ、3年!?!?

そんなに時間をかけていたら、“アート型ビジネス”を実現するには、一体どれくらいの時間がかかるんですか?

研究者

僕の研究によると、5年~10年はかかるとみています。

若者

ちょっと頭がクラクラしてきました・・・。

4章


若者は小川の水面をじっと見つめながら、不服そうに重たい口を開く。

若者

やっぱり納得できません。

起業塾では、短期で大きな結果を出すことを求められてきましたし、それがすごいこととされてきました。でもあなたは、5~10年かけて「稼ぐ」よりも「楽しいこと」を優先したビジネスが成立すると言います。

あまりに真逆ではないですか?あなたは、一般的なビジネスを否定するというんですか?

研究者

それは大きな誤解ですよ。

僕は一切、“一般的なビジネス”を否定していません。それに、みんなに”アート型ビジネス“を勧めようとも思っていません。

これは、「どちらがしっくりくるか」という価値観の話なんですね。

若者

価値観?

研究者

これからビジネスをはじめるあなたの前には、2つの分かれ道があると思ってください。

ひとつは、お客さんのニーズに合わせて、とにかく売れるものをつくる道です。売れるものをつくるので、短期で稼ぐことができます。ですが、商品が必ずしも「やりたいこと」とは一致しないことがあります。さらに、マネをしたりされたりしながら、同業と競争していくこともありますね。

もうひとつの道は、とにかく「これがやりたい」という気持ちを優先した商品をつくる道です。気持ちを最優先しますから、とにかくやっていて楽しいことが結果として仕事になります。人のマネをする必要もなければ、逆にマネされたところで足元にも及ばない強い個性が商品になります。ただし、それを確立するには少なくとも5~10年の時間がかかります。

これは、どちらが良いか悪いかというものではありません。

若者

私は、後者がいいです。後者が”アート型ビジネス”ですよね。誰かと同じになることが、私はとにかく嫌ですから。仮にそれが稼げる方法だったとしてもです。

ですが納得いかないことがあります。

なぜ、“アート型ビジネス”を実現するには5~10年もの時間がかかるんですか?“短期で唯一無二の存在になる方法”はないんですか?

研究者

あなたって人はなかなか欲張りですね。でも、いい質問です。

強い個性を武器に競争から抜け出すには「時間軸」を伸ばすことが重要だと研究から分かったんです。

若者

時間軸・・・ですか?

研究者

「”アート型ビジネス”の実現には5~10年の時間がかかってしまう」ともいえますが、見方を変えれば「5~10年の時間をかけるからこそ“アート型ビジネス”が実現できる」ともいえるんですね。

若者

うーん・・・。

研究者

少し話を変えましょう。

あなたのまわりにはいませんでしたか?

もともとビジネス的な感覚が優れているとか、「稼ぐこと」への執着があって人の何倍もの努力ができるとかで、あっという間にズバ抜けた結果を出せてしまうような人が。

若者

いました。

今思うと「こんなすごい人がいるんだったら自分はかなわないな」って思ったのも、私が挫折した理由のひとつな気がします。

研究者

それはとてもいい気づきでしたね。

あなたがまさに経験したように、どの業界にも「エリート」と呼ばれる人は存在します。

どれだけ頑張っても上には上がいる、それなのに、多くの人はそのエリートと、凄さや技術で競争しようとするんですよね。

若者

それはダメなことですか?

研究者

いえ、ダメというわけではありませんよ。

ただ、非エリートでも、いや、非エリートだからこそ、エリートに勝てる方法があることが私の研究から分かったんですよ。

若者

ぜひ、教えてください!

研究者

その方法こそが「凄さ」ではなく「時間軸」を伸ばすことですよ。

若者

私でもエリートに勝てるんですか?

研究者

そうです。

僕の例をお話しましょう。僕は日々、研究者としてあらゆることを研究しています。そのひとつに「天才」にまつわる研究がありました。

若者

おもしろいですね、興味があります。

研究者

でしょう?

あなたのように「おもしろい」と思ってくれた人の中から、「マネしてやろう」と思う人が出てきてもおかしくありません。私よりも、もっと優秀な研究者はいくらでもいますしね。

ですが、もし、その「天才理論」を確立させるために、僕が1000人分の “天才”のデータを集め、ひとつひとつを解析していたとしたらどう思いますか?

若者

ちょっと、マネするには気が遠くなりそうです。

10人くらいだったらすぐに追い越せそうですが。そもそも、1000人も研究するなんて、私にとっては時間の無駄というか・・・。

もう少し効率を考えちゃいますね。

研究者

そう、まさにそれなんです。

若者

え?

研究者

誰もマネできないどころか、マネしたいとすら思わないところで戦う、これが“アート型ビジネス”の考え方です。

私の研究は、見る人によっては、無駄でしょう。しかし、私にとってそれは、誰からも一切評価されなかったとしても、5年でも10年でも続けられるほど楽しくて仕方がないことです。

だから、量をこなし、数を積み上げ、時間をかけることが全く苦ではありません。それが結果として、誰もマネできない、いや、マネしたいとすら思わない「唯一無二」の域に到達させてくれるんです。

若者

だんだん分かってきました!
えっと・・・あなたの言いたいことをまとめると、こうですね。

  1. 「唯一無二」の存在になるには誰にもマネされない強い個性が必要。
  2. その強い個性をつくるには、誰もマネしたいとすら思わないような、無駄の積み上げが効果的。
  3. ただし、マネしたいとすら思われないくらいの数や量を積み上げるとなると時間がかかる。
  4. だからこそ、評価や結果が伴わなかったとしてもやり続けられることをはじめに選ぶ必要がある。
  5. その「評価や結果が伴わなくても続けられること」とは「ただやっているだけで楽しいこと」
  6. つまり、ずっと続けられる「楽しいこと」と出会うことが“アート型ビジネス”の入り口。

どうですか?

研究者

その通りです。
話せば分かってくれるんですね。

若者

褒められている気がしませんが、どうすれば「唯一無二」になれるのか、なぜそのために5年や10年もの時間がかかるのか、ようやく納得できました。ほんの少しだけですが。

研究者

よかったです。
明日、この島から出て行くと聞きましたが本当ですか?

若者

はい、そろそろ戻らないといけません。

研究者

では、明日、港で見送らせてください。

若者

分かりました。

5章

若者は大きな荷物を背負い、港へ向かった。

この島で過ごすのも今日が最後。若者には、はじめてこの島に降り立ったときより、空が高く感じられた。港に到着し、あたりを見回すと、男がベンチに腰掛け、小さく手を振っているのが見えた。

研究者

今日でお別れですね。
島で過ごした時間はどうでしたか?

若者

なんだか不思議な時間の流れ方でした。
友人に感謝です。もちろん、あなたにも。

研究者

最後に聞いておきたいことはありますか?

若者

まだまだ“アート型ビジネス”の入り口に立ったばかりなので、もっともっと教えて欲しいことだらけですが、初めてお会いしたときから気になっていたことがあります。

研究者

なんでも聞いてもらってもいいですよ。

若者

その・・・、
あなたは一体何者なんですか?

研究者だと思ったら、ビジネスの世界のことも詳しいようですし、それにどこかつかみどころがないというか。

研究者

ははは。

別に隠していたわけではありませんが、僕も過去に起業塾を経営していたことがあるんですよ。

若者

そうなんですか?

研究者

3ヶ月で月商100万円を目指す起業塾で、1000人の卒業生を輩出しました。

参加者の3割に成果がでればいいとされる業界で、参加者の8割以上が3ヶ月以内に売り上げアップに成功していましたよ。

超短期間で売り上げをアップさせるのが僕は得意だったんですね。

若者

もっと早く言ってくださいよ!

研究者

いやいや、聞かれなかったので。

若者

もう。でも“アート型ビジネス”とは真逆のことをしていたんですね。

研究者

そうですね。

変化のきっかけは元塾生の活動をSNSでのぞいてみたことでした。塾で学んでいたときはうまくいっていても、3~5年後に追跡してみると、「集客」につまずき、伸び悩んでいる人が一定数いることが分かったんです。

そこで、「なぜ伸び悩むのか」を客観的に考え直してみたら、あること気づきました。

若者

あること?

研究者

本当の課題は集客じゃなくて商品にあったんです。

そもそもの商品が面白くないんですよ。集客で悩んでいる人のほとんどが、同業者と似たようなことをしてしまって、その他大勢に埋もれていました。

その事実に気づいてから、安易に集客方法を教えるのをやめて「独自性が高いサービスの作り方・広め方」を研究し、伝えることにしました。

あなたに読んでもらった「移住」「表現者シップ」も、そのために書いたものですよ。

若者

そうだったんですか。

フェリ-出発のアナウンスが港に響く。

若者

そろそろ行かないと・・・。

もっとお話したかったのですが、最後にあなたのことが分かってよかったです。

研究者

僕も、あなたとお話ができて楽しかったですよ。
いつでもまだ遊びに来てください。

若者

はい。今度は、やりたいことの見つけ方を教えてもらいたいです。

誰にも評価されなかったとしても5年、10年続けられるような「楽しい」と思えること、私も見つけたいです。

研究者

ぜひ、待っています。

若者は「ヨイショ」と大きな荷物を背負い、男と握手を交わすと、フェリー乗り場へ向かった。

きっと今この瞬間から何かが大きく変わり始めるのだろう。何がどう変わるのか、若者にはまだ想像できない。だけど、想像を超えた変化が起こり始めている確信はあった。

若者が胸いっぱいに島の空気を吸い込み、大きく一息ついて後ろを振り返る。小さくなった男が大きく手を振る姿が見えた。

島で過ごしたたった数日を、この空を、この海を、この空気を、これからの人生で何度も何度も思い出すのだろう。

若者は「行ってきます」とつぶやき、島をあとにした。

モデル:山田研太(やまけん)

やまけん(山田研太)の SNSでは書けないことを書く変なメルマガ

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